ガスコンロの火

アンチ・オール電化

「レディ・ベス」/フェリペ王子が最高な話

16世紀イギリス。
ヘンリー8世の王女として生まれたレディ・ベスは母親のアン・ブーリンが反逆罪で処刑されたため、家庭教師ロジャー・アスカムらと共にハートフォードシャーで暮らしていた。

そうしたある日、若き吟遊詩人ロビン・ブレイクと出会う。
ベスは、彼の送っている自由なさすらいの生活に心魅かれる。

メアリーがイングランド女王となると、ベスを脅威に思い謀略をめぐらすメアリーの側近、司教ガーディナーらは増長の一途をたどる。
ベスは絶え間なく続く苦境に、自分自身の運命を嘆きながらも、強く生きることを決意し、ロビン・ブレイクと密やかに愛を育む。

メアリーの異教徒への迫害が続くなか、民衆は次第にベスの即位を望むようになる。
そんな中、メアリーはベスへある告白をする…
(http://www.tohostage.com/ladybess/story.html)


2017.10.15 帝国劇場
ベス:花總まり
ロビン:加藤和樹
メアリー:吉沢梨絵
フェリペ:古川雄大

◆パッション

半年ぶりくらいの古川雄大くんの舞台を見てパッションが完全に復活しました。とってもカッコよかったです(幼稚園児)

◆作品について

「レディ・ベス」私は2014年の初演を観ていないので、今日が初めての観劇でした。「エリザベート」や「モーツァルト!」で知られるシルヴェスター・リーヴァイ作曲、ミヒャエル・」クンツェ脚本の通称クンリーコンビ*1による作品です。

大英帝国の栄華を築いた、女王エリザベス1世の少女時代の数奇な運命を描いた作品…なのですが、かなりエリザベス(ベス)を取り巻く関係が複雑だし、エリザベス1世という人物の功績もそこまで知られていないのでなかなかとっつきにくいかな……と思います。かなり政治劇の色合いが強いかもしれません。
細かいことを色々書いていると長くなりそうだし、誰も読んでくれなさそうなので我らがフェリペ殿下を中心に思ったことを書こうと思います。

◆フェリペ王子が最高だという話(重要)

古川雄大くんが演じるフェリペは、スペインの王子です。スペインの王子です。フェリペは、主人公ベスを淫売の娘として憎む異母姉の英国女王メアリーの夫として英国にやってきます。

まず登場シーンがサイコーです。

テレレ〜ンとスパニッシュなイントロと共にビリヤード台がスッ…と舞台上に現れ、スポットライトが付くと、半脱ぎのシャツと女性用のコルセットとドレスとかぼちゃパンツを纏い、女性たちと戯れる(婉曲表現)フェリペ殿下が現れます。
冷静に書いていて正気を失いそうな情景なんですけれど、本当にそうなんです。シャツは脱ぎかけだし、女物の服を着ているし、かぼちゃパンツだし、女遊びをしているんです。(振り付けが最悪に下品で最高)しかも、こんな格好でもすごく美しくってかっこいい。久しぶりに脳みそをスコーン!と殴られたような衝撃を味わいました。*2

既に無理になっているのですが、たたみかけるように歌う「クールヘッド」という楽曲が最高です。

「勝ちたければ 情け無用
必要なのは クールな頭脳
A COOL HEAD」
「おぞましい結婚相手だ メアリー!
行かず後家のブス チビなんかと」
「異端者でも ベッドで燃えるのは
若くてキレイな レディ・ベス」

散々遊んだ挙句「飽きた」とポイして去っていくのも最高でした。


次にフェリペはメアリーとの結婚にあたり、女王メアリーの治世について、その身分を隠しつつ道行く人にインタビューします。偶然通りかかったロビン(ベスの想い人で吟遊詩人)一行はメアリーの異教徒に対する厳しい弾圧と、異教徒の親玉として捕えられてしまったベスのことを訴えます。このときのフェリペの「スペインのフェリペ王子を信じなさーい」のドヤ顔がめっちゃ可愛いので必見。


メアリーとフェリペの結婚式は、お衣装がすごく豪奢で、照明が当たるとキラキラ眩しくて綺麗です。(重そうだけど…)
綺麗な婚礼衣装を纏いながらも行かず後家のブスと結婚させられるフェリペの渋面は必見です。美しいので。
式の最中、ベスから押収した禁書の聖書が届けられ、ベスをロンドン塔へ幽閉させようとするメアリー配下の司教に対してフェリペがブチ切れるのですが、その「聖書をズバーーーン!!と投げつけて周囲に怒りを知らしめる」という行動がちょっと子供っぽいというか…モラハラの気配を感じて好きでした。

……まだ殿下のシーンはあるのですが、このあたりでやめておきます。

◆フェリペについて考えたこ

◆怜悧すぎるが故の危うさ
「クールヘッド」の場面で、目を引いたのはフェリペのギラギラと怪しく光る瞳でした。このシーン、なんならギャグになってしまいそうなんですがフェリペの醸す「こいつはヤバいぞ」という雰囲気のおかげでとっても怖いです。ブスなんかと結婚しない!と言う目も爛々と輝いていて底知れぬ恐ろしさがありました。
フェリペは自分でいうように賢く冷静ですが、鋭すぎるがが故の危うさを感じました。理性の糸が常にピンと張りつめているというか……常に理性と狂気の縁を歩んでいるというか……


演技は「黒執事」のセバスチャンにちょっと通じるものがあるかもしれません。何を考えているかわからなくて、目が笑ってないところとか(笑)


そもそも美しいものって時に怖いじゃないですか。それもあってフェリペは恐ろしい人物だなと感じました。結局(いつものごとく)古川雄大くんの姿が美しいってオチになってしまいました。

◆遊んでいる理由
これはかなり穿った…というか妄想に近いのですが、

フェリペがなぜあんなに派手に遊んでいるのか、という疑問です。ただ遊び好きなのかもしれませんが、フェリペの聡明であるが故の孤独…というか、彼は周囲の人々の嘘偽りやおべんちゃらを見通してしまうが故にうつけているのではないか、と思いました。
ある種の自暴自棄と言えるかもしれません。
そう思うと、女たちと戯れているのに大して楽しくなさそうな様子に納得がいく…かもしれません。

◆ベスを助けた理由
初演ではベスとフェリペの絡みがもう少しあったらしいのですが、再演ではワインのシーンしかない!残念!!
フェリペはベスの身を幾度も助け、最終的には死の危険に迫られたベスをギリギリのところで救います。

しかし、その根底は騎士道精神ではなく「ベスの自由を求める反乱が起きれば自身の身が危ない」とか「スペインの国益」「己を操ろうとするルナールへの牽制」にあると思います。つまり、ベスが助かったのはあくまでオマケで、フェリペは自分(とスペイン)の利益を追求していただけではないか?と思います。「情け容赦はしない」フェリペが、ベスに温情を掛けるとはあんまり考えられません。

ですが、ベス……エリザベス1世は、物語の後年スペインが誇る無敵艦隊を木っ端微塵に粉砕し、スペインの栄光は終わりを迎えます。
作中でフェリペは去り際に「ベスと結婚しておくんだった」と吐き捨てます。もしフェリペがベスと結婚していたら、おそらくスペインが英国に大敗を喫することはなかったと思うのです。聡明なベスが女王に即位したら、スペインの国益が損ねられるかもしれないというフェリペ殿下の冷静な理性が弾き出した結果と、若くて綺麗な女と結婚したいという本能とが同じ結論に至ったのが面白いなあと思いました。

◆余談

ベスについて最も評判が悪かった歌詞については割とずっこける部分が多く
メアリー「赤ちゃんは幻〜〜」(言葉選びなんとかならない?)
ロビン「(歌は)めちゃウマさ〜」
と現実に引き戻されるような詞がちらほらあって閉口しました。クールヘッドはアレでいいんだけれど。

それから楽曲ですが、例えばエリザベートの「私だけに」のようなコレ!という曲が無かったのが残念です。全体を通して記憶に残るメロディが少なく、おまけに歌詞もイマイチなので音楽に関しては面白みがないです。

セットはとても綺麗でした。大きなホロスコープが八百屋舞台になっていて、その上に天球儀が置かれた装置が開幕前から見えて、世界観にすぐに引き込まれました。
それから衣装も豪華で凄いです。ベスは何度も着替えがあるんですが、どのドレスも上品で素敵でした。ちなみにロビンは流れ者らしく着た切り雀です。

余談ですが、面白くない舞台について私はコメントに困るとセットと衣装を褒めてしまいがちです。別にベスが面白くないって言いたいわけじゃないんだけど。*3

◆感じたこ

レディ・ベス、初日明けてから随分経ってから見に行ったのですが想像以上に楽しくて次の観劇が待ち遠しいです。しばらく古川雄大くんの舞台での姿を見ていなかったのですが、雑誌やネットでの写真よりも随分とほっそりして「好きやん…」という感情しかありません。もともと好きだったし、美しさもわかっていたんですがお久しぶりだったせいでよりその「美」が衝撃的でした。半年も見てなかったんだよ?

去年は年中無休で舞台やってたのでオッ今日も古川雄大くんは綺麗ですね〜(飲み屋で暖簾をくぐって大将やってる〜?と尋ねるノリ)という感じだったんですが、今年はフレンチのフルコースを前にするような気合いで古川くんの美に向き合ってしまいます。何言ってるんだかわからなくなってきました。

ここまで文字数を費やしてきたのですが、ベスとロビンというメインカップルについて全く触れることなくきてしまいました。なので、お時間のある方はチケットまだあるので是非レディ・ベスを見にいらしてください…!!

*1:誰が言い出したんだよこれ

*2:1回目は古川ルドルフと城田トートの「マイヤーリンク」

*3:たまに衣装もセットも褒められない舞台もあってどうしたらいいかわからなくなる

7・8月観劇録

お久しぶりです。気がついたら10月ですね(遅いよ)
この夏は古川ロベスピエールへの愛を拗らせてパリに行ったため充実しておりました。(計画を立てた時点では古川くんがロベスピエールやると思ってた やめようこの話は) ロベピエオタクツアーについてはいずれエントリを書きたいと思います。めっちゃ充実した夏だった!

レ・ミゼラブル

レミゼのチケットとりあえず取ったんだけれど上原理生くんのアンジョルラスも見たかったんだよね、と知り合いに話したら「今年で多分最後だから見たほうがいいよ!」と譲って頂けました。おかげで吉原バルジャベの両方も見ることが出来ました。個人的には吉原バルジャン岸ジャベが好きな感じでした。岸ジャベールからほんのり漂う官僚っぽさとノーブルさが好きなのかもしれません。肝心の上原アンジョですが、出て来た瞬間「めっちゃりおくんじゃん!」と思いました。役者が前に出て来ているという意味ではなく、上原くんそのものがアンジョで、アンジョが上原くんである…みたいな。役者と役の強い共鳴が、アンジョルラスとおう人物の持つカリスマ性に説得力を与えているようでとてもよかったです。歌声や演説の力強さと、死して荷車に乗せられた姿のキツい対比も、「強そう」な上原さんだとより胸に迫るものがありました。とても良かったです。

レミゼという作品は好きですが、1幕の苦しさと観劇し終わったあとの重さとでもう2度と行きたくない!という気持ちになります。もう勘弁と言うと貶しているようですが、そうではないんです。作品の登場人物にいちいち同情したり感動したりと大変忙しく疲れてしまうのです。これはある意味、「もう見たくない」が褒め言葉になる稀有な作品ではないかな…と思います。

ちなみに、私の好きなシーンは司教が燭台をバルジャンに与えるシーンと、天に召されたバルジャンをねぎらうように司教が肩を叩くシーンです。聖書に「憐れみ深い人は幸い/その人は憐れみを受けるだろう」という言葉があるのですが、私はその意味するところをレミゼを見て初めて本当にわかった気がします。バルジャンは司教の憐れみ——憐憫ではなく——を受け改心し、人生の全てを他者への「憐れみ」の実行に捧げます。そんなバルジャンの生を司教が祝福しに表れるの、まさに魂の救済だな〜と思いました。いちいち表現が宗教宗教していてちょっと引きますね。
*1

とまあ、レミゼのことは好きなのですが、マジでもう2度と見たくないです。でも、再演ではまた行くしその時も「もうレミゼは見ねえ〜〜!!」と言いつつ涙を拭いてそうな気がします。

・Beautiful
帝国劇場 ミュージカル『ビューティフル』
シンガーソングライターのキャロル・キングの半生のミュージカルなんですが、無学ゆえにキャロルキングって誰じゃいと思いながら見に行きました。親子関係ものだと思いました。
キャロルの母は作曲家を志すキャロルに対し、教師になり安定した生活をするようにと説いたのに、キャロルが成功した時に「娘に音楽をやるようにと言ったのは私なのよ!」と胸を張ります。コメディタッチで描かれたシーンだったのですが、めっちゃ怖かったです。あと、キャロルは浮気して出て行った父親を嫌っているのに、浮気する男と結婚してしまうところとか…
怖かったです。

グランギニョル
ピースピット2017年本公演≪TRUMPシリーズ最新作≫『グランギニョル -Grand Guignol-』 作・演出:末満健一
三浦涼介くんがゴシックでお耽美な演目に出る!と聞いて見に行きました。これはね〜TRUMPをちゃんと履修してから見るべきだったと大変後悔しています。一応世界観とか用語については頭に入れて行ったのですが、ちょっと消化しきれなかったかもしれない。ラストの方のダリがウルにイニシアチブを掛けるシーンで「まあなんて未来に希望を持たせる展開なんでしょう〜」って思ったんですが、周りの人の大号泣が明らかに〜明るい未来🔆🔆🔆〜を彷彿とさせるものではなかったのが気がかりです。
ちゃんとシリーズを見ようと思いました。

邪馬台国の風/Sante‼︎(花組)
柚香光さんのお顔がびっくりするくらい良くてびっくりした。ヤバくない?ヤバかったです。
今回客席降りがあって、運良く柚香さんとサンテ!(ジェンヌさんと公演グッズのグラスで乾杯する)できたんですが、あまりにも美しい人が現実に存在するという事実に発狂しそうになりました。SAN値チェック!客降りは最高。
これまで宝塚のショー作品を生で見たことなくって、どんな風に楽しむんだろう…って思って行ったら顔がいい人々のエレクトリカルパレードみたいな感じであっという間でした。主題歌がすごく好きです。古川くんの舞台がしばらくないからヅカでも手を出すか〜と気軽に興味を持ったら想像以上に楽しい世界で抜け出せなくなりました。とりあえず全組観劇するようにしたのですが、いわゆる「大劇場」以外にも色々な劇場で公演をしているので、見られる演目が沢山あって退屈しないです。サイコーです。
ちなみに「邪馬台国」ではクガタチという単語を学べて勉強になりました。みんなクガタチってしってる?日本史好きじゃないから知らなかったよ…【ネタバレ感想】花組の邪馬台国の風がアッパー系シャブだった話 - 強く生きるこの記事を読んで、作品のあまりにも熱いトンチキズムにワクワクしていたのですが、上演の最中でかなりの手直しがされたようでトンチキズムはちょっと鳴りを潜めていて少し残念でした。(充分トンチキだったけれど) やっぱりムラまで見に行かなきゃダメなんだ……東京に来るまで座して待っていては遅いんだ………と拳を握りました。

実は古川雄大くんの舞台はもう始まってるし(「レディ・ベス」帝国劇場で絶賛上演中!)、なんなら新しいお仕事(「マリー・アントワネット」来年9月からフェルゼン役として出演!)も発表されたしそもそももう10月も半ばなんですけど、なんでこんな記事を今更書いているのかというとサボっていたからです。ソシャゲにがっちゃんがっちゃん課金してました。反省しています。意外に読んでくださる方がいると知ったので、頑張って書いていこうと思います。

*1:ロミジュリの時もそうだけどいちいちキリスト教の話になってしまうのはなぜ?って思うけどレミゼめっちゃキリスト教色強いから仕方ない

2017上半期まとめ

お題「2017年上半期」
ちょっと前に梅雨入りしたと思ったらもう7月か、月日が流れるのが最近早くて恐ろしいです。年始にロミジュリに汲々として以来の記憶が全くなくて怖いですね。

みたもの

1.フランケンシュタイン
ビクターは中川さん、アンリは加藤さんと小西さんで見ました。各地に張り出されたポスターが大変アンリとビクターの間の関係性を前面に出していたので、「そういう感じ」かなと思って見に行ったら意外にそうでもなくて拍子抜けでした。アンリ、ビクター、ジャック、怪物それぞれをキャラ立てして描写した結果、散漫になってしまったような印象を受けました。ですが、アンリと怪物/ビクターとジャックの1人2役がある意味この作品のウリなので、仕方ないかもしれません。 作品としては年明け早々、超ヘビーでした。

2.ロミオ&ジュリエット
楽しかった〜〜!!!今年1番楽しかった作品だったかもしれません。上半期の思い出はほとんどロミジュリに詰まっています。作品も楽曲も大好きで、共演者の方もみんな素敵で最高の舞台でした。

3.アルターボーイズ
ゴールドと合同を見に行きました。ひたすら出ずっぱりで踊り通しで、若さってすごいな…と思いました。キラッキラの汗が眩しかったです。

4.ミュージカル「手紙」
5.ミュージカル「アルジャーノンに花束を
6.ミュージカル「王家の紋章
初演も観に行ったのですが、初演よりもスリムになっていて良かったです。ルカの出番が減ってしまったのが少し残念。

7.グレート・ギャツビー
美術と衣装が素敵でした。最初のジェイがプールに落ちるシーンのあの円盤の幕……(?)が印象的でした。

8.「スカーレット・ピンパーネル」(宝塚・星組)
人生初の宝塚でした。すごく楽しかったです。
作品自体は知っていたし、映像でも観たことはあったんですが生で見ると顔がいい人たちの奔流!をより実感できました。

9.レ・ミゼラブル
楽曲は何度も聞いたことがあったんですが、お芝居を見るのは初めてでした。最初の20分くらい本当に陰鬱で、登場人物の誇りがバキバキに折らればかりなのを見ながら「なんでこんなミュージカルが人気なんねん…」と思ってましたがその後ひたすら感動したおしでした。「今年は格別」と知人のレミゼオタクが言っていたのですが(ボジョレーヌーヴォーか?) 確かにとても良かったです。

あとはコンサートとかライブにちょくちょく行ってましたけどこんな感じかな…?何か忘れている気がする……

下半期にはレディ・ベスと黒執事があるので、それが楽しみですね。ミュージカル黒執事、12/31が初日なのでギリ2017年ですね…
あとは「スカピン」をきっかけに宝塚にハマっていて、特定のご贔屓がいるわけではないんですが色んな組の公演を観に行こうと思っているので、割とそっちも忙しそうです。全然知らなかったんですが、宝塚って大劇場以外にも全国ツアーとか別箱とか色々やってるんですね!?

ぼちぼちと好きなものを追っかけていきたいです。

「スカーレット・ピンパーネル」(2016梅芸/2017宝塚星組)

2016年初演、2017年11月再演の梅田芸術劇場製作の「スカピン」、それから宝塚でなんども上演されている「スカピン」は同じブロードウェイミュージカルを下敷きにしながら、さながら二卵性双生児のような少し異なる容貌をしています。
梅芸版は再演が発表されたし、宝塚スカピンを先日観劇したので、下書きのまま放置していた感想を書き直し、また両者の違いについて考えてみました。


"1789年「自由、平等、博愛」の理想の元に蜂起した市民たちによりフランス革命が勃発してから数年。革命家ロベスピエールを指導者として頂くフランスでは粛清と恐怖の嵐が吹き荒れ、かつての貴族たちが次々にギロチンにかけられ処刑されていた。
それを憂いた英国貴族のパーシー・ブレイクニーは、「スカーレット・ピンパーネル」と名乗り、仲間たちと「ピンパーネル団」を結成し、密かに貴族たちの亡命の手助けをしていた。パーシーはフランスの元女優であるマルグリットと結婚するが、彼女に秘密でピンパーネル団の活動を行うパーシーとマルグリットの間には深い溝が出来ていく。
一方マルグリットの元恋人であり、ロベスピエールの部下の公安委員ショーヴランは、ピンパーネルの正体を暴くべく暗躍していた
ある日、マルグリットの弟のアルマンは、ピンパーネル団の一員として活動していたショーヴランに摘発され囚われの身となる。マルグリットはアルマンを助けるべく単身パリに渡り、そこで「スカーレット・ピンパーネル」の正体を知る。"


梅田芸術劇場製作 「スカーレット・ピンパーネル」

ピンパーネル団に相葉裕樹さん、太田基裕さん、植原卓也さん、廣瀬智紀さんといった若手俳優を配し話題になりました。梅芸スカピンはかなりコメディ寄りで、石丸幹二さん演じるパーシーが親父ギャグ*1をやたら飛ばしていました。ピンパーネル団のメンバーは(イギリス貴族であることがバレないように)色々な変装をするのですが、釣り人、物乞い、警官といった変装の中で廣瀬智紀さんが1人だけ女装をして花売り娘を演じていたのが印象的でした。 「私とお花、どっちが綺麗〜〜〜???」と叫びながら公安委員をしばくちゃんともさんの姿はしばらく忘れられませんでした。ちゃんともさんの方が綺麗でした。
ピンパーネル団は個々のキャラクター性は濃くないのですが、本役以外にも色々なところで顔を出しているので彼らを探すのも楽しみのひとつでした。

ピンパーネルの正体についてあちこちで噂される中行われた舞踏会に参加するにあたり、パーシーたちはピンパーネルであることが見破られぬよう、ド派手な衣装を着て斜め上のおしゃれをしてバカを装う「男の務め」という場面があるのですが「原色のフリフリのガウンに羽をつける」という派手でありつつもまともというか躊躇いが見られる衣装で少し残念でした。遠目からでも見分けがつくので色分けされるるのはとてもわかりやすくて良いです。

マルグリットの弟アルマンを演じていたのは矢崎広さんで、これがとっても可愛かったです。どんなに拷問されてもピンパーネルの正体について口を割らなかったにもかかわらず、共に捕まったマルグリットに対し「パーシーは絶対に助けてくれる!」と口を滑らせるうっかりっぷりが弟力高すぎて最高でした。かわいい……

好きなシーンは、パーシーが作戦の危険さに心が折れかけ、ピンパーネル団をフランスに帰そうとした時、メンバーが「炎の中へ」をアカペラでパーシーに語りかけるように歌う場面です。ピンパーネル団のメンバーはただパーシーに従っていたのではなく、彼らがパーシーの対等な仲間であることを確認するというか。ちょっと男子校っぽいなと思います。

梅芸版は全体的に痛快な冒険活劇!といった印象が強かったです。元になったBW版に近いのはこっちだとか。再演ではパーシー、マルグリット、ショーヴラン以外のキャストがガラッと入れ替わり、ピンパーネル団には久保田秀敏さんや多和田秀弥さん、東啓介さん、藤田玲さんが加わりました。演出陣も少し変わったので、再演ではブラッシュアップされるのかな?と期待しています。個人的には藤田玲さんの貴族の姿を見るのがめっちゃ楽しみです。




宝塚歌劇団星組「スカーレット・ピンパーネル」

梅芸版がコメディ寄りなら、宝塚版はエモの奔流といった感じでした。
元となったブロードウェイ版に小池修一郎氏によるかなり大胆なアレンジが加えられたそうです。その中でも最も大きいのはBW版と梅芸版にはない「王太子救出」のエピソードでしょうか。

国王ルイ16世、王妃マリー・アントワネットが処刑されたのち、幼い王太子ルイ・シャルルは病弱でありながらも幽閉され、虐待に近い扱いを受けていた。パーシーはルイ・シャルルの元を密かに訪れ救出を約束し、「勇気の歌」として「ひとかけらの勇気」を教える。やがて救出された王太子を匿う家をそうとは知らずマルグリットが訪れ、パーシーの理解不能な行動を嘆く。それを聞いた王太子は「僕の母は最期まで父を信じていた だからあなたもパーシーのことを信じて」とマルグリットに抗議し、マルグリットはパーシーがスカーレット・ピンパーネルであることを悟る。のちに公安委員に捕らえられたマルグリットはスカーレット・ピンパーネルをおびき寄せる囮として劇場に立たされ、革命を賛美するように命じられるが、彼女は反抗し王太子に教えられた「ひとかけらの勇気」を歌う。その場に忍び込んでいたパーシーからは妻への疑いが氷解するのだった。

まずエモいのは「ひとかけらの勇気」の使い方です。*2 梅芸版ではパーシーの決意の表現として歌われるのに対し、宝塚では曲そのものが意味を持っています。マルグリットがこれを歌う時にパーシーは(なぜかロベスピエール様の信頼篤い)謎の外国人グラパンに扮しているのですが、マルグリットの歌を聞くときはそれまでのおちゃらけた雰囲気は何処へやら、本気でびっくりしているんですよね。

それから「マルグリットがピンパーネルの正体を、彼に助けられた王太子により知る」という展開もかなりドラマチックです。弟がうっかりバラしてしまう梅芸版との温度差がすごい。でもアルマンの存在感は梅芸の方が大きいかもしれません。可愛いし。

印象的だったのはロベスピエール役の七海ひろきさんです。己の揺らぐ権力に対し「まだ革命は完遂されていないのに」と焦りを見せるソロは、史実でのロベスピエールの状況(間も無く処刑される)と重ね合わせると聞いていてとても苦しかったです。あととにかく美しくてかっこよくて最高でした。*3


これまでスカピンはただ楽しいコメディだと思っていたのですが、(宝塚版は)初めて生で観劇したからかあるいは歳のせいか、やたら涙が溢れてしまい困りました。結婚した途端よそよそしくなった夫に戸惑い、必死にかつてのパーシーを取り戻そうとするマルグリットに感情移入してしまったり。ラストにパーシーに出し抜かれるショーヴランも(そしてロベスピエールも)遠くないうちに処刑されてしまうことが悲しく思えました。おそらくロベスピエールたちは革命が完遂されれば「自由、平等、博愛」の精神が具現化すると信じていたわけじゃないですか。その高潔な理想が粛清の嵐を呼び起こしたという事実が悲しいです。
これまでロベスピエールは峻厳な独裁者であるが、パーシー扮するグラパンにすっかり騙され彼も周囲も振り回される、というユーモラスな役だったのですが、16年の梅芸版から"NEW AGE OF MAN"というソロが追加され、ロベスピエールという人物が抱く悲壮な決意とジレンマが描かれるようになりました。パーシーたちの大義だけでなく、革命側の理想とその変質という視点が加わったことでより作品の余韻が増したのではないかと思います。*4




こうやって比べてみると同じミュージカルのはずなのに随分印象が異なるなあ、と実感します。素材がいっしょなだけにカンパニーの個性というか、表現したいことの違いが如実に伺えて面白いなあと思いました。梅芸は冒険小説っぽくて宝塚はロマンティックなんですよね。

それにしても、2016年10月にスカピンやって、17年の3〜5月にもスカピンやって、さらに11月にもスカピンやって…ってどんだけスカピン好きなんだよ、わかるけど…と思いました。*5


秋の梅芸版の再演も楽しみです。

*1:結構滑っている

*2:これは宝塚で上演されるにあたり書き下ろされた曲だからある意味オーダーメイドみたいなもんだけど…

*3:ご本人は面白くて明るい二次元オタクだって本当に本当ですか?ますます好きになってしまうかもしれない

*4:スカピンのロベスピエールを「影」とするなら、同じ小池修一郎による「1789」で描かれるのは「光」の部分でその対比がエモくて最高

*5:去年の夏には東宝と宝塚が東西でエリザベートやってたけど……

嬉しいこと

古川雄大くんの帝劇初主演ミュージカル「モーツァルト!」の上演が発表されました。

正直晴天の霹靂というか、本当に突然爆弾が降ってきたような気分です。びっくりしました。
めちゃめちゃ嬉しいです。やたらにニコニコしてしまいます。一日経った今でも嘘じゃないかとすら思います。始まるまで信じられないかもしれません。



初日、客電が落ちた客席でじっ…と息を潜めて舞台を見つめる瞬間、どんな気持ちで迎えるんだろう…と想像するだけでワクワクします。

3月のツアーで「事務所をやめて、みなさんにご心配をかけたかもしれませんが、これからの古川雄大は(珍しく)光100%です!」と言っていた訳がちょっとわかりました。
その時にヴォルフのソロの「僕こそ音楽」を歌ったのはある意味予告というか、匂わせだったんですね。 ライブの帰り道、いつかヴォルフガング演ってくれたら嬉しいな〜まあまだ先だろうな〜〜おたくはすぐ願望おしつけてしまうなあ……なんて思ったのですが、その「いつか」がこんなに早く訪れるとは思いませんでした。まさに夢みたいです。

ヴォルフの持つ偉大な才能(幼い頃の姿、アマデとして具象されますね)ゆえの「闇」の表現は古川くんが得意とするところですが、傍若無人で、はっちゃけたヴォルフの陽性な部分はどういう風な演技を見せてくれるかな〜と思っています。



同時に情報が解禁された、再演1789ではロベスピエール役が古川くんから三浦涼介さんになるんですね。正直ロベスピエールは続投だろう〜とタカを括っていたので、わりとうっちゃられたというかなんというか。まさか1789に出ないとは露ほども思ってなかったのでびっくりしました。いろんな人に「1789古川くん出るから〜」と言った覚えがあります。みんなテキトーなこと言ってごめん。


でも三浦涼介さん、ロベスピエール役がめっちゃ似合いそうじゃないですか?
帝劇のモーツァルトと1789の地方公演は確実に時期が被るので忙しくなりそうですが、両方追っかけたいです。


今回色々な人に「おめでとう!」を言われました。(私のことじゃないんだけどな…)と思いながらもありがとう!と返しています。祝杯あげようかと思ったんですが、それは初日のお楽しみに取っとこうと思います。


まだ1年もあるのかあ、とたったの1年かあ、が共存しています。あと1年間も「楽しみ」を抱えていられるのが嬉しいです。

推しの事務所

推しが事務所をやめた。

そのニュースは公式発表がなされる前日の夜、FC会員にメルマガで唐突に届いた。
私は出先でそのメールを読んだのだが、とりあえず適当なバーで「なんか優しい気持ちになれる酒」を頼むくらいに動揺した。ニエベ・メヒカーナというカフェオレみたいな優しい味のカクテルが出てきた。飲んだらちょっと落ち着いた。

半年くらいスケジュールに空きがあるので何の舞台が入るんだろう?とずっと思ってたらまさかの展開だった!いやーびっくり!!あまりにも急だったので!
これからフリーでやってくのかな…とか、入るとしたらどこの事務所かな…とか、お仕事の傾向変わっちゃうのかな…とか思うことは色々あるけれど、推しが選択したことなので何も言えないです。私が心配してもどうなることでもないですし。*1


とりあえず週末から始まるライブが楽しみです。ちょっと説明あるかな。

*1:でもおたくなので不安に思ってしまう

ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」

感想
東宝のロミジュリみてきました。13年の方を見てなかったので初のロミジュリです。
2013年(再演)のパンフレットで演出家の小池修一郎氏は、
「物語の普遍性を強調するため、時代を現代に移そうとした。本当はSF的近未来を想定し、第三次世界大戦でいびつになった世界を描きたかったが、大震災が起こり破壊や崩壊のイメージが描きにくかった」と語っています。
今度の新演出ではそのボツになったアイデアが使われたようです。


よくスマホ演出(笑)と揶揄される小池修一郎演出のロミジュリですが、そこまで現代風のアレンジには違和感はなかったです。
アナログなロレンス神父がガラケーユーザーだったり、両親が厳しいジュリエットが18歳になるまで携帯を持たせてもらえなかったりと、ガジェットにより役の設定が浮かび上がるような良い使われ方をしていると思いました。


考えたこと*1
・ベンヴォーリオと乳母
ロミオとジュリエット、ティボルトとマーキューシオがシンメだとしたら、ベンヴォーリオと対になるのは乳母だと思います。

乳母やベンヴォーリオはジュリエット、ロミオの親友であり理解者であると同時に、作中で乳母はジュリエットにロミオとの結婚の知らせを、ベンヴォーリオはロミオにジュリエットの死を知らせるというメッセンジャーの役割を負っています。また、乳母はパリスとの結婚について態度を翻すことでジュリエットを(ある意味)殺してしまうし、ベンヴォーリオはジュリエットの死を伝えることでロミオを死に追いやってしまう。その後悔と罪悪感が霊廟のシーンでは2人に滲んでいるように思いました。

乳母とベンヴォーリオは引き離されたロミオとジュリエットの手を繋ぎ直し、両家の和解を促すのが印象的。また、最後の「エメ」大合唱で葬いの蝋燭を悲しみにくれるキャピュレット夫妻にベンヴォーリオが手渡すという演出が本当に大好き。きっとベンヴォーリオは親友たちが世を去ったヴェローナで1人生きていくんだろうと思うと、つい好きになってしまいそうになります。


・ティボルトとマーキューシオ
「仮面舞踏会」のシーンで、マーキューシオは顔を隠しているのをいいことにティボルトにちょっかいを出しまくります。この時ティボルトはジュリエットの順調に進展する結婚話にやきもきして死ぬほど余裕がないので、絡まれる度にブチきれていて面白いです。でも、どうしてマキュはここまでしてティボルトを憎むんだろう?マキュは大公の甥であっても、モンタギューの生まれではないので別にキャピュレットを憎む理由はないんですよね。でも明らかにマキュはロミオやベンヴォーリオよりも過剰にキャピュレットを憎んでいる。わたしはその理由はマキュのティボルトへの私怨と、外野であるマキュがモンタギューに馴染むために派手に反キャピュレットの態度を取っているのかな…と思いました。マキュ、身体小さいから子供の頃ティボルトとかにいじめられてたりしたのかな…してないかな……(自信がない) ただ、当のティボルトはロミオに対する憎しみで頭がいっぱいで、マキュには叔母上との関係を揶揄されるまで興味なさげなのがなんとも………


キリスト教的要素
我々が信心深くないように、現代に生きるロミジュリの登場人物だって信心深くなくたっていいと思う。別に現代版にするならば、キリスト教の要素を取り除いても構わないだろうに(むしろその方が現代風だ) どうしてこんなにもキリスト教のモチーフが物語に出て来るんだろうと不思議でした。 *2

最後の「エメ」大合唱で、「死」は十字架の上で悶え苦しむ。「死」が犠牲になったように、あるいは人々の罪を背負うために遣わされたキリストの様に、ロミオとジュリエットヴェローナの平和のために犠牲になるべく神に遣わされたのではないか。
ロミオとジュリエットが出会って爆速で恋に落ちるのも、神の意志あってのものと思うと納得がいく*3

「平和の祈り」という祈祷文がある。
「主よ、私をあなたの平和の道具としてお使いください。
憎しみのあるところに愛を、
諍いのあるところに許しを、
(中略)
絶望のあるところに希望をもたらすことができますように」

ある意味、ロミオとジュリエットはこの「平和の道具」なのではないかと思います。
2人の亡骸を見つけた神父は「2人が結ばれてヴェローナに平和が訪れるはずだった、なのに何故神は見捨てられたのか?」と嘆きます。しかし、神は決して2人を見捨てたのではなく、そうあるべくして悲劇的な結末にたどり着いたのではないかと思いました。*4
あまりにもキリスト教に寄った解釈かもしれません、原作がまさに宗教が支配していた中世に書かれた作品だから許してほしい…何より、こう解釈することでしかロミジュリの爆速すぎる恋愛の進展を理解できなかった……



今回、ダブルキャストの組み合わせを変えて何度か観劇したのですが、それぞれのキャストで役解釈がかなり違い、それによって物語の印象が大きく変わりました。やっとダブルキャストの醍醐味を味わうことができました。何度見ても楽しかった。再々々々演を楽しみにしています。その時はどんな若手が配役されるんだろう。

好きな役者が素晴らしい楽曲と演出家の元、最高の演技を見せてくれる、こんなに幸せなこともおたく人生の中ではないですね。おたくでよかった。

*1:全て私の解釈です、あしからず

*2:原作がそうだからでは?

*3:気がする

*4:アルターボーイズを観劇したせいかやけにキリスト教付いてます