ガスコンロの火

アンチ・オール電化

ミュージカル黒執事 NOAH's ARK CIRCUS

めっちゃネタバレしてます。

とりあえずこれをみて欲しい

作品について

今回は演出が素晴らしかった。まず、セットがとても良くできていた。*1両サイドに階段とバルコニーがあり、センターは円形の舞台の上に回転する2階建ての半円形の装置という構造(説明するのが難しい)で、それぞれ2階部分は一本の廊下としても使える…という構成になっていた。このセンターの装置の使い方がとても上手で、特にラストのシエルたちが見るとある物がスッと現れる演出は鳥肌が立った。セットは人を見せるだけでなく、何かを隠すためにも使えるんだと初めて気づいた。
今回セットが2階建てだったので、一般に見づらいとされる3バルでも十分楽しめると思った。
舞台袖部分にもサーカス団の雑多な道具が積んであるのも雰囲気があった。


それからこの作品を語るのに欠かせないサーカス部分が良くできていた。三津谷くんが一輪車の腕前を披露することはニュースになっていたが、それ以外にも空中ブランコや綱渡り、アクロバットエアリアルととにかく色々なパフォーマンスのサラダボウルだった。ここは映像で誤魔化すんだろうな、と予想していた空中ブランコも実際に演じられていたのは凄かった。むしろ、火吹きや玉乗りが見られなかったのが残念になる。(無茶)

サーカス開幕のシーンは、サーカス団の面々がダンスを踊り空中でピーターとウェンディがぐるぐる回り…ととにかく華やかだった。鮮やかな照明、キラキラした衣装で踊るキャストたち!とまさにサーカスの楽しさがあった。ショーが華やかなほど、彼らの影の部分がよく際立ちます。
あと好きなのはロンドンで起きた誘拐事件について刑事2人が話すシーン。ロンドンの地図についた赤いバツ印が増えていく…という映像が音楽も相まって恐ろしくて好きです。


演出に対して、楽曲は前作「地に燃えるリコリス」の方が良かったと思う。メロディが難しくてあまり頭に残らないというか、ここで音上がるんだろうな、というところで音が下がる感じであまり聞いていて気持ちよくない感じがした。リコリスでは「降り止まぬ雨」「道に迷わないように」「私はあなたの剣となり盾となる」のような歌い上げる曲が何曲かあって印象的だったのだけれど、今回はそういう曲はなかった。一幕終わりの「全ては明日に」(曲名わかんないですが)は不協和音でスッキリしないのと、パートを分割しすぎていて微妙だった。
先生のパートなんて「裏口へ〜」だけなのはなんとかならなかったのかと思う。

歌詞がよく聞こえない箇所があることもイマイチだった。何度か見に行ったがわからないところは本当にわからない。スネークのソロはいい感じの押韻がきいた英語詞が入ってたんだけれど、あんまり何言ってるのかわからなくて残念。ミュージカルで歌詞がわからないのは致命的ではないかと思う。DVDが届いたら、ブックレットを眺めながらじっくり見直したい。



今回の話は原作でも屈指の救いのないエピソードで、登場人物の誰もが報われなくて観劇後、いつも重苦しい気持ちになった。特にジョーカーに関してはは、孤児院の弟たちを守るために、弟と同じような子供を後ろめたく思いながらも攫っていたのに、サーカス団は壊滅して全てを失い、更に…という2段落ちの展開は苦しいです。「なんてな、今さらごめんな」という最後の呟きには心を打たれた。

また、サーカス団の面々には孤児院の子供達、使用人たちにはシエルに仕える平穏な毎日、アグニにはソーマ、ソーマにはシエルという守るものがあるけれど、じゃあシエルの守るものとは何だろう…?*2と思うとシエルの抱える虚無を感じて、うら寂しい気持ちになりました。


キャストについて
古川雄大 /セバスチャン・ミカエリス
ビーストに誘いをかけるときの表情が凄く好みだった。悪魔というか、爬虫類の類の冷たさがあった。それからダンスがとても綺麗。

内川蓮生 /シエル・ファントムハイヴ
凄くかわいい。シエルの冷徹になりきれない甘さや優しさといった人間らしさといった演技が上手だと思った。恐ろしい12歳です。

輝馬 /ウィリアム・スピアーズ
音圧の高い歌声とかしゃべりがすごく好きです。ウィリアムは今回真面目なのに面白いというか、あのスーツとかパジャマとか最高じゃなかったですか?パジャマから覗く足首がとても良いです。セバスチャンとのデュエットが強そう、空中ブランコでブンブン飛んでても歌声がブレないのが流石でした。というか輝馬くんと古川雄大さんの空中ブランコが見られるの、レアでは??
輝馬くんはツイッターがとりわけ最高なので是非見てほしい。盛る気を感じない自撮りとか、小学生男子っぽいところとか。*3

ダガー/ 三津谷亮
一輪車のチャンピオンだという噂は聞いていたけれど、そのパフォーマンスを目にすることができてよかった。呼吸するように乗りこなしているので気づかないかもしれないのですが、めちゃめちゃ上手いですね……普通にダンスするときよりも一輪車にのって踊る方が腰の入れ方とかの動きが滑らかです。地上で踊るときは振りにちょっとタメが入るのも好き。
裏の顔を見せる時の冷たさも良かった。「俺がやっちゃいましょうか」のあたりとか。

ドール/ 設楽銀河
めっちゃ可愛かった。もともと予定されていた子役が凄く歌が上手い子だったので、急遽キャストの変更となって、どうなるかな、と思っていたけれど歌が上手いとかどうこうじゃなくてお芝居が上手で良かった。ドールがドールという名前をもらうシーンは作中でも一番心に響きました。

ジョーカー/ 三浦涼介
ジョーカーはサーカス団としてステージに立つとき、団員を相手にする時、それからシエルたちと対峙する時の歌声の芝居が印象的だった。ラストのソロは聞いていて涙がぼろぼろ出るような慟哭でした。ウィルの読み上げていた書類によると、ジョーカーは本名をもたない娼婦の息子なんですね。「リコリス」では娼婦たちの堕胎が事件のきっかけになるのですが、堕ろされずに生まてこれた子供達の末路がサーカス団の面々であり、あるいは犠牲になった孤児院の子供たちだということは悲しいです。「俺たちは親に捨てられ、国に捨てられていた」んですね。
そんな彼らのことを歌った「人はどんどん贅沢になり ドブに比べりゃ天国なのに、もっともっと求める…」と後悔が滲み出るような歌詞がありましたが、彼らが求めた平穏な暮らしがどれほどの贅沢だったのだろうと思います。やるせないです。


サーカス編、まだ福岡兵庫愛知での公演が残り、大楽はライビュもあるので気になった方は是非。劇場でみた方が楽しめる作品かと思います。

*1:金かかってるな〜と思う

*2:原作では許嫁がいるけど

*3:褒めてます