ロベスピエールのオタクが「ひかりふる路」の先の希望を観てしまった話
ずいぶん開幕から時間が経ってしまいましたが「ひかりふる路」を観劇しました。私は「1789」という作品を観劇して以来マクシミリアン・ロベスピエールという人物に関しては気が狂ってしまったので、当然この「ひかりふる路」もめちゃめちゃ楽しみにしていました。期待値が高い反面、生田先生と解釈違いを起こしてしまったらどうしよう…という不安もありました。
しかしそのような懸念を軽々と超えた最高の作品でした。観劇したの結構前だけどついに気合を入れて書きます。感傷溢れすぎてキモいのを。
1.如何にして余はロベスピエールのオタクに成りしか
2016年に東宝で上演された「1789」では古川雄大くんがロベスピエールを演じていて、最初は推しが演じる役だから好き、くらいの気持ちだったのですが、調べていくうちにロベスピエール本人が好きになりました。特に「1789」でコッテリ描写されたデムーランやダントンとの友情と、その不幸な転機など、あまりにも世界史の筆者は性格が悪すぎる…と思います。自然と、1789の公演でもも「その後」を強く意識するようになりました。当時「革命家トリオが革命のあと決裂して決定的に対立して、ダントンとデムーランを死に追い込んだあとぼろぼろになって断頭台に登るロベスピエールのミュージカルが見たい!!!」と叫びまくっていたことを覚えています。
その後もロベスピエールに対する感傷を抱きながら生きていたのですが、17年の3月にロベスピエールを主人公にした作品が宝塚で上演される!という事を知り、めちゃめちゃ湧きました。と、同時に幾ばくかの不安を抱いたのも事実です。基本的にロベスピエールに対するイメージは「権力と血に飢えた怪物」じゃないですか。ヅカのスカピン(初演再演)でも割りとそんな描写でしたし。また、宝塚にの作品は基本的に男女の恋愛が中心なのに、実際のロベピは未婚であまり女性と深い関係になって居たわけではないので、そのあたりをどう創作するのかな、と。もしロベピが恋愛脳になってたらキレるしかない!!と思いました。
その後「生田先生がスカピンのロベスピエール役の七海ひろきさんに白水社から出版されたロベスピエールの伝記を勧めた」と知り、その伝記が元ネタになってるんなら大丈夫だろう…いや大丈夫だよね…という調子でいました。(どんだけ解釈違いが怖かったんだ) 夏には、フランスに行きロベスピエール聖地巡礼ツアーに行ったりしました。((そのエントリも書くつもりでいて半年経ってしまった))
イキリ観光客だったので、ロベスピエールが処刑された7月28日の夕刻、ギロチンの置かれていた「革命広場」(今のコンコルド広場)に花束持って行きました pic.twitter.com/QdlPJkdRBU
— こーてんし (@koutenshi_0811) 2017年11月26日
△ロベスピエールの命日に花束を抱えて、断頭台のあった広場に立ち「これがロベスピエールの最期に見た空か…と感慨に浸るオタク
まあそんなわけで、ロベスピエールのオタクになりました。
2.「ひかりふる路」について
2-1.脚本と考察
基本的にひかりふる路のロベスピエール描写は全肯定大好きありがとう〜!!!!なのですが、その中でも気になった部分をいくつか。
ロベピは本来死刑反対派で、作中でも描かれるように人命を尊重する考えを持っていたのですが、なぜか最期の数ヶ月で恐怖政治を執り行うようになります。その理由はわかっていません。この作品では、「マリー・アンヌとの未来のために更に革命の成功を追い求めるようになる」と描かれています。この解釈がめっちゃ好きです!良かったです!ロベピがあくまでも革命家であり、恋愛感情が先走ることはないかな…と私は思うので。
「スカピン」のロベピ((再再演))も、革命のジレンマに捕らわれて戸惑っているのですが、こちらのロベピは状況に引きずられてしまったような印象があるのですが、ひかりふる路のロベピは自ら修羅の道に突っ込んでいます。こっちの方が救いがあるかな…スカピンロベピもお先真っ暗なのですが、自ら選んだ結末で滅ぶほうが、まだマシな気がします。
また牢獄のシーンでロベピとマリー・アンヌは「もし普通に出会っていたら、幸せになれるだろうか」という問いに「そうであれば出会うことすらなかった」との答えを出しています。ロベピもマリー・アンヌも、自分たちの選択を否定も後悔もしないのが良かったです。「これ以外に方法はなかった」という諦念に近いのですが、もしそこで自分たちを否定したら、恐怖政治により犠牲になった人があまりにも浮かばれないと思います。
「ひかりふる路」はロベスピエールに「後悔はない」と語らせます。史実の彼が、最期に何を思ったのかは我々には計り知れぬことですが、
生田先生が「なぜロベスピエールが暴君となったか」という問いに出した答えは、望海ロベスピエールを救うものだったと思います。
あと、史実のダントンは刑場へ向かう際にロベピの下宿先の前を通りかかかり「次は貴様の番だ!ロベスピエール!!」と叫んだのですが、この作品のダントンは「俺は先に行って待っているからな」と叫びます。
友人を失い、誰も信用できない孤独なロベスピエールを最期まで思いやるダントン、あまりにも優しくてウッ…となりました。*1
・マリー・アンヌとロベスピエール
ロベスピエールはマリー・アンヌの瞳にギラつく殺意を光だと感じて心惹かれるのに、エレオノールの好意には全く気づかないのは。彼自身が愛を知らずに育ったからかな、と思います。そのちょっと前の街角のシーンで娼婦に絡まれたロベピの本気で困った顔めっちゃかわいい。街中で鳥売りのカナリアの籠を載せた台車が通り過ぎるのですが、マリー・アンヌとの出会いのシーンでカナリアが出てくるのは象徴的だと感じます。かつてロベピは、妹の友人から贈られたカナリアを飼っていたそうです。カナリアは結局彼には懐かなかったようで、ロベピは「鳥たちは私のことを人間だと思っていないようです」と彼女に手紙を書いています。
このカナリアが出てくるシーンではマリー・アンヌはロベピになつくどころか、殺意を抱いているわけじゃないですか。それを、カナリアによって隠喩しているのかな、と思います。
ロベピの回想シーンでマリー・アンヌと一緒に踊っているロベピが少年の顔をしていて好きなのですが、この場面ではマリー・アンヌの家族と婚約者が混じっています。マリー・アンヌは、家族たちにも恋人にも別れを告げられずじまいでしたが、ここでまた彼らと再会し、ちゃんと見送ることで「止まっていた時が動き出した」のかな、と思いました。最初はロベピばっかり見ていたので気づかなかったのですが、コレを知った時めちゃめちゃ泣いてしまいました。ロベピの言う「自然は人を区別しないが、人が人を区別することで不平等が生まれる」はルソーの人間不平等起源論から取られたものです。ロベピはルソーから大きな影響を受けているのですが、そういった小ネタを自然に挟むのが生田先生は本当にお上手だと思いました。
また、牢獄での場面の「2人旅立とう」という歌詞がありますが、コレを私は以下のように解釈しました。ロベスピエールは後世では冷酷な暴君として伝えられるけれども、その本当の素顔と彼が「暴君」と成り果てた理由はマリー・アンヌだけが知っている、そしてそれを知る彼女が生きることで、本当のロベスピエールが生き続ける、と。
あと、最後のキスの瞬間に一瞬ロベスピエールが戸惑うのが、あまりにもロベピらしいと思いました。そういうところが好き…!!
・ダントンとデムーランとロベスピエール
私はこの革命家のトリオが大好きなので、肩組んで笑っている3人を見ているだけで精神がおかしくなりそうになります。このトリオの最期を描くミュージカルを見るのはわたしの願いだったので本当に嬉しかったです。史実ではダントンもデムーランもロベピへの憎悪マシマシなのですが、それがロベピに優しく改変されているのが生田先生の優しさと革命家同士の友情を感じて泣けます。ダントンの「焦げ臭い青春を駆け抜けろ!」という歌詞が好きです。焦げ臭い青春、最高のエモワードですね。
ダントンとロベスピエールの晩餐のシーン、ダントンの誘いにぎゅっと表情を変えて断るロベピがとっても辛いです。個人的には、ダントン邸向かう前に既に逮捕の指示を出していたんじゃないかな…と思います。だから是と答えたくても答えられないのではないかと。最期にダントンが、先にロベスピエールのグラスにワインを注ぐのが悲しいなあと思います。最期のワインよりも、友との一献を優先するのがダントンらしいです。
これは私の解釈なのですが、サン・ジュストはロベスピエールにある種の理想を投影して崇拝しているだけで、人間としての彼には関心はありません。それ故、ロベピを革命そのものたる「神」に仕立て上げたのだと思います。そしてその「神」がその純度を失わないようにマリー・アンヌやダントンを追い払うのです。(ダントンは元々めちゃめちゃ嫌いだったんだろうけど) また、「至高の存在の祭典」でマリー・アンヌが逮捕されて狼狽えるロベスピエールに動揺するのは、「民衆が見ている」のみならず、サン・ジュストがロベピの神性が揺らぐことに戸惑ったからだと思います。 これも私の勝手な解釈なのですが、もし仮にダントンがロベピの説得に成功して、方針転換をしたらサン・ジュストはロベピを粛清していそうだなと思います。本当に勝手な解釈、もとい思い込みです。
サン・ジュスト、ジャコバン・クラブでのシーンでは他の議員とニコニコ笑いながらじゃれていたのがめっちゃ可愛かったです。
ちなみに、ステージトークで司会の方から(これ重要)「ロベスピエールとサンジュストの関係はBLか?」と問われて朝美さんが「ラブではない」と答えたのがすごく解釈が合致します。サンジュスト→ロベスピエールの感情は、愛情とか友情ではなくただひたすらの崇拝だと思っています。だからロベスピエールは孤独なのです。
2-2.演出
演出については上の項目でだいぶ書いてしまったのですが…
恐怖政治がはじまる前野パリのシーンでもずっとギロチンの刃のパネルが吊り下げられていたのが「ダモクレスの剣」のようで印象的でした。
それから、背景のパリに流れるセーヌ川が赤く光り、ギロチンに変わる演出はまるでセーヌ川が血で染まるようで面白いと思いました。セットはそこまで豪華ではないですが、使い方がとても上手かったです。
あと、ちょいちょい「1789」へのオマージュを感じる場面やセリフがあって嬉しかったです。デムーランの「民衆の声なき声を言葉にするのが、我々の使命だ」は1789デムーランのソロ「声なき言葉」から取ってるのかな、とか思います。考えすぎかもしれません…
2-3.衣装
登場人物の衣装にギロチンの刃を彷彿とさせる線が入ってるのがエグいです。あと、ロベスピエールが最初に着ている青みがかった緑の衣装は肖像画で着ていたものが元ネタだと思います。こういう細かい工夫が好き…
ロベスピエールの最初のお衣装、緑色にブルーの偏光の生地ってどっかで見覚えあるなってずっと気になってたんだけどこの肖像画だー!! ありがとう生田先生… pic.twitter.com/qZsV9w9PMQ
— こーてんし (@koutenshi_0811) 2018年2月9日
それから、マリー・アンヌのドレスが最初は貴族のお嬢さん…が没落した感じの華やかだけれども古ぼけたようなドレスから、革命に目覚めて以来活動的なものに変わることに気づきました。
2-4.出演者
・望海風斗さん
えー…歌が上手い!!噂は聞いていたのですが、本当に歌がすごく良くて驚きました。ただ歌唱力が有るというよりも、感情の乗り方が凄まじいです。あと苦しそうな演技がめっちゃ好きです。9~11場の演説台での、民衆に見せる決然とした姿と、迷いや葛藤の相克が繰り返されるシーンが凄く好きです。あと、ダントン亭で見せる神経質な苛立ちとかめっちゃ解釈が合います。((何様のつもりだろう))闇属性の方だと勝手に思いました。勝手にロミジュリやってほしいなと言う願望を押し付けています。私は望海さんの「憎しみ〜エメ」が聞きたいです。
・真彩希帆さん
真彩さんも歌が凄い!というウワサだったのですが、本当に歌が良かったです。お芝居の声が落ち着いていて聞き取りやすくて好みです。ロベスピエールを暗殺しようとする瞬間に見せる険しい表情が、本当に夜叉みたいで怖かったです。そんな殺意のギラつきに心惹かれるロベスピエールは本当にどうしようもなく数奇な因果を背負ってると思います。公演終盤ではちょっと曲のキーが変わっていて(間違っているのは)「貴方よ」で上げなくなったのですが、それだとマリー・アンヌの迷いが現れているようでいいな、と感じました。
ところで、マリー・アンヌの回想シーンはめっちゃSound Horizonだと思うって話をツイッターでしたら、結構な方がわかってくれて嬉しかったです。
・彩風咲奈さん
彩風さんの他の演技を見たいなと思うのですが、これはキャプテンネモのDVDを買うべきなのでしょうか。結構真剣に悩んでいます。
・沙央くらまさん
沙央さん、月組1789でダントンを演じてからの今回のデムーランという配役は「文脈」を感じてエモいと思います。「」の歌詞は「月」「雪」というワードが散りばめられた退団ソングになっていることに気づきました。
・朝美絢さん
おかおが…きれい……
3.「SUPER VOYAGER!」について
初見の日は一幕で感情が燃え尽きて、もう無理…もう帰る……と壊れかけのラジオのようにつぶやいていたのですが、ショーが始まった瞬間めちゃめちゃ元気になりました。永久機関の仕組みってこうなってたんだと学びました。一度、朝美さんのゼロズレに座ったので勝手に視線もらった!!!ってキャッキャしました。ここまで長文書いてつかれたのでこのへんにしておきます。が、全ツ版で暴風雪の代わりのアイドルユニットが出てこなかったら暴動起こします。
いつか感想を書かねば……と思っていたら結局前楽まで引きずってしまいました。多分2018年最高の作品でした。こんなに素晴らしいキャストとスタッフでロベスピエールを描いた舞台が上演されることはもう無いと思います。それを見られたことは、本当にこの上ない幸せでした。
ずっと忘れられない作品です。
*1:この話はrisaさん(
雪組公演『ひかりふる路 ~革命家、マクシミリアン・ロベスピエール~』感想 - 夢ならいつまでも2人きりなのに)の感想にもありますが…