ガスコンロの火

アンチ・オール電化

「レディ・ベス」/フェリペ王子が最高な話

16世紀イギリス。
ヘンリー8世の王女として生まれたレディ・ベスは母親のアン・ブーリンが反逆罪で処刑されたため、家庭教師ロジャー・アスカムらと共にハートフォードシャーで暮らしていた。

そうしたある日、若き吟遊詩人ロビン・ブレイクと出会う。
ベスは、彼の送っている自由なさすらいの生活に心魅かれる。

メアリーがイングランド女王となると、ベスを脅威に思い謀略をめぐらすメアリーの側近、司教ガーディナーらは増長の一途をたどる。
ベスは絶え間なく続く苦境に、自分自身の運命を嘆きながらも、強く生きることを決意し、ロビン・ブレイクと密やかに愛を育む。

メアリーの異教徒への迫害が続くなか、民衆は次第にベスの即位を望むようになる。
そんな中、メアリーはベスへある告白をする…
(http://www.tohostage.com/ladybess/story.html)


2017.10.15 帝国劇場
ベス:花總まり
ロビン:加藤和樹
メアリー:吉沢梨絵
フェリペ:古川雄大

◆パッション

半年ぶりくらいの古川雄大くんの舞台を見てパッションが完全に復活しました。とってもカッコよかったです(幼稚園児)

◆作品について

「レディ・ベス」私は2014年の初演を観ていないので、今日が初めての観劇でした。「エリザベート」や「モーツァルト!」で知られるシルヴェスター・リーヴァイ作曲、ミヒャエル・」クンツェ脚本の通称クンリーコンビ*1による作品です。

大英帝国の栄華を築いた、女王エリザベス1世の少女時代の数奇な運命を描いた作品…なのですが、かなりエリザベス(ベス)を取り巻く関係が複雑だし、エリザベス1世という人物の功績もそこまで知られていないのでなかなかとっつきにくいかな……と思います。かなり政治劇の色合いが強いかもしれません。
細かいことを色々書いていると長くなりそうだし、誰も読んでくれなさそうなので我らがフェリペ殿下を中心に思ったことを書こうと思います。

◆フェリペ王子が最高だという話(重要)

古川雄大くんが演じるフェリペは、スペインの王子です。スペインの王子です。フェリペは、主人公ベスを淫売の娘として憎む異母姉の英国女王メアリーの夫として英国にやってきます。

まず登場シーンがサイコーです。

テレレ〜ンとスパニッシュなイントロと共にビリヤード台がスッ…と舞台上に現れ、スポットライトが付くと、半脱ぎのシャツと女性用のコルセットとドレスとかぼちゃパンツを纏い、女性たちと戯れる(婉曲表現)フェリペ殿下が現れます。
冷静に書いていて正気を失いそうな情景なんですけれど、本当にそうなんです。シャツは脱ぎかけだし、女物の服を着ているし、かぼちゃパンツだし、女遊びをしているんです。(振り付けが最悪に下品で最高)しかも、こんな格好でもすごく美しくってかっこいい。久しぶりに脳みそをスコーン!と殴られたような衝撃を味わいました。*2

既に無理になっているのですが、たたみかけるように歌う「クールヘッド」という楽曲が最高です。

「勝ちたければ 情け無用
必要なのは クールな頭脳
A COOL HEAD」
「おぞましい結婚相手だ メアリー!
行かず後家のブス チビなんかと」
「異端者でも ベッドで燃えるのは
若くてキレイな レディ・ベス」

散々遊んだ挙句「飽きた」とポイして去っていくのも最高でした。


次にフェリペはメアリーとの結婚にあたり、女王メアリーの治世について、その身分を隠しつつ道行く人にインタビューします。偶然通りかかったロビン(ベスの想い人で吟遊詩人)一行はメアリーの異教徒に対する厳しい弾圧と、異教徒の親玉として捕えられてしまったベスのことを訴えます。このときのフェリペの「スペインのフェリペ王子を信じなさーい」のドヤ顔がめっちゃ可愛いので必見。


メアリーとフェリペの結婚式は、お衣装がすごく豪奢で、照明が当たるとキラキラ眩しくて綺麗です。(重そうだけど…)
綺麗な婚礼衣装を纏いながらも行かず後家のブスと結婚させられるフェリペの渋面は必見です。美しいので。
式の最中、ベスから押収した禁書の聖書が届けられ、ベスをロンドン塔へ幽閉させようとするメアリー配下の司教に対してフェリペがブチ切れるのですが、その「聖書をズバーーーン!!と投げつけて周囲に怒りを知らしめる」という行動がちょっと子供っぽいというか…モラハラの気配を感じて好きでした。

……まだ殿下のシーンはあるのですが、このあたりでやめておきます。

◆フェリペについて考えたこ

◆怜悧すぎるが故の危うさ
「クールヘッド」の場面で、目を引いたのはフェリペのギラギラと怪しく光る瞳でした。このシーン、なんならギャグになってしまいそうなんですがフェリペの醸す「こいつはヤバいぞ」という雰囲気のおかげでとっても怖いです。ブスなんかと結婚しない!と言う目も爛々と輝いていて底知れぬ恐ろしさがありました。
フェリペは自分でいうように賢く冷静ですが、鋭すぎるがが故の危うさを感じました。理性の糸が常にピンと張りつめているというか……常に理性と狂気の縁を歩んでいるというか……


演技は「黒執事」のセバスチャンにちょっと通じるものがあるかもしれません。何を考えているかわからなくて、目が笑ってないところとか(笑)


そもそも美しいものって時に怖いじゃないですか。それもあってフェリペは恐ろしい人物だなと感じました。結局(いつものごとく)古川雄大くんの姿が美しいってオチになってしまいました。

◆遊んでいる理由
これはかなり穿った…というか妄想に近いのですが、

フェリペがなぜあんなに派手に遊んでいるのか、という疑問です。ただ遊び好きなのかもしれませんが、フェリペの聡明であるが故の孤独…というか、彼は周囲の人々の嘘偽りやおべんちゃらを見通してしまうが故にうつけているのではないか、と思いました。
ある種の自暴自棄と言えるかもしれません。
そう思うと、女たちと戯れているのに大して楽しくなさそうな様子に納得がいく…かもしれません。

◆ベスを助けた理由
初演ではベスとフェリペの絡みがもう少しあったらしいのですが、再演ではワインのシーンしかない!残念!!
フェリペはベスの身を幾度も助け、最終的には死の危険に迫られたベスをギリギリのところで救います。

しかし、その根底は騎士道精神ではなく「ベスの自由を求める反乱が起きれば自身の身が危ない」とか「スペインの国益」「己を操ろうとするルナールへの牽制」にあると思います。つまり、ベスが助かったのはあくまでオマケで、フェリペは自分(とスペイン)の利益を追求していただけではないか?と思います。「情け容赦はしない」フェリペが、ベスに温情を掛けるとはあんまり考えられません。

ですが、ベス……エリザベス1世は、物語の後年スペインが誇る無敵艦隊を木っ端微塵に粉砕し、スペインの栄光は終わりを迎えます。
作中でフェリペは去り際に「ベスと結婚しておくんだった」と吐き捨てます。もしフェリペがベスと結婚していたら、おそらくスペインが英国に大敗を喫することはなかったと思うのです。聡明なベスが女王に即位したら、スペインの国益が損ねられるかもしれないというフェリペ殿下の冷静な理性が弾き出した結果と、若くて綺麗な女と結婚したいという本能とが同じ結論に至ったのが面白いなあと思いました。

◆余談

ベスについて最も評判が悪かった歌詞については割とずっこける部分が多く
メアリー「赤ちゃんは幻〜〜」(言葉選びなんとかならない?)
ロビン「(歌は)めちゃウマさ〜」
と現実に引き戻されるような詞がちらほらあって閉口しました。クールヘッドはアレでいいんだけれど。

それから楽曲ですが、例えばエリザベートの「私だけに」のようなコレ!という曲が無かったのが残念です。全体を通して記憶に残るメロディが少なく、おまけに歌詞もイマイチなので音楽に関しては面白みがないです。

セットはとても綺麗でした。大きなホロスコープが八百屋舞台になっていて、その上に天球儀が置かれた装置が開幕前から見えて、世界観にすぐに引き込まれました。
それから衣装も豪華で凄いです。ベスは何度も着替えがあるんですが、どのドレスも上品で素敵でした。ちなみにロビンは流れ者らしく着た切り雀です。

余談ですが、面白くない舞台について私はコメントに困るとセットと衣装を褒めてしまいがちです。別にベスが面白くないって言いたいわけじゃないんだけど。*3

◆感じたこ

レディ・ベス、初日明けてから随分経ってから見に行ったのですが想像以上に楽しくて次の観劇が待ち遠しいです。しばらく古川雄大くんの舞台での姿を見ていなかったのですが、雑誌やネットでの写真よりも随分とほっそりして「好きやん…」という感情しかありません。もともと好きだったし、美しさもわかっていたんですがお久しぶりだったせいでよりその「美」が衝撃的でした。半年も見てなかったんだよ?

去年は年中無休で舞台やってたのでオッ今日も古川雄大くんは綺麗ですね〜(飲み屋で暖簾をくぐって大将やってる〜?と尋ねるノリ)という感じだったんですが、今年はフレンチのフルコースを前にするような気合いで古川くんの美に向き合ってしまいます。何言ってるんだかわからなくなってきました。

ここまで文字数を費やしてきたのですが、ベスとロビンというメインカップルについて全く触れることなくきてしまいました。なので、お時間のある方はチケットまだあるので是非レディ・ベスを見にいらしてください…!!

*1:誰が言い出したんだよこれ

*2:1回目は古川ルドルフと城田トートの「マイヤーリンク」

*3:たまに衣装もセットも褒められない舞台もあってどうしたらいいかわからなくなる